香りが際立つ コーヒーやお茶を愉しむ新しいかたち
畑萬陶苑の技と美を注ぎ込み開発した「Rim Mug(リムマグ)」は、コーヒーやお茶を愉しむための新しいかたち、バレル型のマグカップです。
「香りや飲み心地について、突き詰めたい。」
その思いを実現するべく、promoduction / プロモダクションの浜野貴晴さんにデザインを依頼し、バリスタや調香師といったコーヒーや香りのスペシャリストに助言を求めながら、形状開発のための職人、釉薬や絵の具の専門家らの協力のもと、新たなスタイルでの商品開発を試みました。
こだわったのは、 香り立ち、口当たり、持ち心地
マグカップのデザインにおいて、コーヒーなどの香りを楽しむ上では、アロマを閉じ込める、口が窄まった「バレル型」と呼ばれる樽のようなボディの形状が優れています。
一方、口当たりは、広がりのある「ラッパ型」が飲みやすく、飲み物をほどよく口に流し込みます。
この相反する二つの要素をいかに両立させるか?
デザイナーから提案されたのが、「もたせ」と呼ばれる厚みを口元に設けた形状です。
「もたせ」とは、上部に厚みを設けることで、焼成時に変形を抑える効果がありますが、この「もたせ」を口当たりにも応用しようという発想。一旦厚みをもたせ、そこから口先に向けて薄く仕上げることで外形は窄まっていても、内形は「ラッパ型」の広がりを生み、香り立つ「バレル型」でありながら口当たりも良いという、双方のメリットを共存させる形状を実現しています。
ボディの下部に配したハンドルへのこだわり
さらに、マグカップを持つときの指掛かりにもこだわりがあります。
マグカップを購入するとき、売り場で指掛かりの感触を試す方は多いと思いますが、実際に飲み物を入れて持つと、指へのあたり(荷重)が違うのを感じたことはありませんか?
Rim Mugは、さまざまな指の太さにフィットする三角形の取っ手が生む持ちやすい形状というだけでなく、飲み物を入れたときのバランスにもこだわり、ハンドルをボディの下部につけているのが特徴です。
できる限り重心バランスを下にすることで、飲み物が入ったマグカップを持つときの過度な指への荷重を軽減させるよう工夫したデザインになっています。
釉薬による加飾表現への新たな挑戦
伊万里鍋島焼の魅力とされる繊細さと奥行き感の新しい表現を目指して開発した「Rim Mug」。
今回、形状とともにこだわったのが、釉薬による加飾表現です。
絵付けを得意とする畑萬陶苑ですが、近年新たな表現にもチャレンジしており、釉薬や絵の具の専門家らにも協力いただきながら、こだわりの質感と発色を生み出しました。
窯の中で変化する釉薬の表情
下絵付と上絵付のレイヤーを何度も重ねていくことで奥行き感を表現する鍋島焼らしさを、絵付けではなく釉薬で表現するとしたら?
そこで考えたのが特殊な釉薬の性質を利用する手法です。 釉薬は生地の厚みの違いや形状でかかり具合が変わります。一般的な釉薬は、そうしたかかり具合の違いがあっても均質になるように原材料が調合されていますが、Rim Mugには、焼成すると窯の中で結晶化したり色の変化が起こったりする「結晶釉」を多く採用しました。
不均質な表情が生まれるこの手法は、量産体制の流通では扱いにくいものですが、味わいのあるうつわの景色として好まれるのではないかと考えました。
口元やハンドルの縁は釉薬が薄くかかり、下部に向かって釉薬が流れ落ちるとリムの部分で溜まりが生まれて厚くかかる。そこで生まれる色の変化や陰影が、鍋島焼の特徴である奥行き感や自然の景色を写し取った表現に通じるととらえ、作り手の想いを込めています。
絶妙に計算された口径とカップの形状
2022年夏、商品開発中のRim Mugのプロトタイプを持参して、デザイナーの浜野さんとともに伊万里のカフェ「LIB coffee IMARI」へ。
バリスタ・森永一紀さんにご協力いただき、実際に「Rim Mug」を使ってコーヒーの試飲をしていただきました。
「鼻を包み込む口径サイズが絶妙ですね。香りが豊かに立ち上がるのを感じます」と、バレル型のマグに好感触の森永さん。
「一般的なコーヒー一杯の容量(160-180ml)を注いでも、カップ内に十分な空間があるので、風味や香りをより深く味わうことができる形」とご評価いただきました。
Rim Mugは満水で約300ml入る標準的なマグカップサイズに設計しており、ご家庭だけでなく、カフェなど業務用でも使っていただくことを想定したデザインです。
「新しい豆の焙煎後のテイスティングにもおすすめ。少なめに注ぐと、アロマがより際立ちます」とアドバイスもいただきました。
道具としての機能性と愛用したくなる美しさの両立
試作を繰り返し、実際に使用感を試しては修正を重ね、約一年半の試行錯誤を経てこのかたちに辿り着いた「Rim Mug」。
最後に、ともにプロジェクトを進めたデザイナーの浜野さんにお話を伺いました。
「Rim Mugは、道具としての機能性と美しさの両立を目指してデザインしました。
焼き上がってからわかる生地の膨らみや凹みなど、図面の通りにはいかない焼きもののデザインにおいて、目指す形になるまでミリ単位の調整に辛抱強く取り組んでいただき、大変ながらも充実したプロジェクトでした。
畑萬陶苑の技術力はもちろん、分業制の焼き物の生産現場において、生地の形状開発、釉薬の調整などに関わっていただく職人たちとのコミュニケーション、窯元としてのマネージメント力があってこその仕上がりだと思います」(浜野さん)
畑萬陶苑は、これからもものづくりに真摯に向き合い、日々使いたくなる、愛される器づくりに努めてまいります。
「Rim Mug」で、おいしいコーヒーとくつろぎのひとときを楽しんでいただけたらうれしいです。
Pottery
畑石修嗣 Hataishi Shuuji / 畑萬陶苑
Designer
浜野貴晴 Hamano Takaharu / promoduction
http://promoduction.jp
Barista & Roaster
森永一紀 Morinaga kazuki / LIB coffee IMARI
https://lib.in.net/coffee/